5月

31/05/04

「物語をする」と「お祈りをする」
  「物語をする」は英語ではtell a story、「お祈りをする」はsay a prayerです。なぜ「する」が英語では異なった語になるのでしょう。それを説明するためにまず銀行のATM(現金自動預け入れ引き出し機)のお話から始めます。ATMはautomated teller machineの頭文字をつなげたものです。真ん中のtellerは人であれば「出納係」の意味で、簡単に言えば「(お札を)数える人」です。つまりtellはもともと「数える」の意味を持っていました。そこから「数えるように順序立てて話す」の意味を持つようになりました。「物語」は順序だった話ですからtellが用いられるのは当然です。それに対して、「お祈り」というのは、たとえば「南無阿弥陀仏」のように、意味もよくわからない決まり文句ですから、順序立てて話をするときに用いるtellは使えません。では、なぜsayになるかということを説明しましょう。例えば、英語で"Speak English."と命令されたらどう答えれば良いでしょう。何でもいいから英語の文を言えばいいのです。たとえば"This is a pen."でもよいのです。それは、この場合には「英語という言語を話せ」の意味だからです。では"Say English."と言われたらどうしますか。今度は"English."と答えるのです。つまり「そのまま言う」のですね。「お祈り」の言葉は決められたとおりの言葉を「そのまま言う」わけですからsay a prayerになるのです。
21/05/04

「キュー」
  テレビのディレクターなどが、ビデオを映し出すときに「キュー」と言います。学生に、「『キュー』」って何の意味」と訊ねると、答えられません。つまり、使う場面はわかっているのですが、語の意味は分かっていないのです。『明鏡国語辞典』で引くと「テレビやラジオの放送で演出者が演技・音楽などの開始を指示する合図」と書いてあります。英語で綴るとcueでほぼ同じ意味です。つまり「開始の合図」です。国語辞典に書いてあるのは、意味というより用法ですね。
  では次に、飲み物を注いでいる場面を思い浮かべてみてください。そのような場面で注いでいる人が英語でSay when(whenと言ってください)と言えば「適量になったら言ってください」の意味になります。そして、適量になった段階で「はいそれでいいです」の意味で注いでもらっている人がWhenと答えます。このwhenがcueともともと同じ語なのです。
  英語やフランス語などの共通の祖先の言語では疑問詞はk音で始まっていました。その名残がラテン系の言語に見えます。「何時(いつ)?」はフランス語ではquand、イタリア語ではquandoスペイン語ではcuandoです。だいたい「クアンド」のような発音になります。さてニュース原稿を書くときなどの心得として「5W1Hをはっきりさせること」というのがあります。「誰が、何を、いつ、どこで、なぜ、どのように」したのかをきちんと説明しなさいと言うことです。英語で書くとwho, what, when, where, why, howです。たしかに頭文字を見ると5W1Hです。しかし、発音してみると分かりますが、どの語も初めはh音です。「フー」「フェン」「ハウ」のように読んでください。つまり、5W1Hは発音では6Hになります。つまり、上記の言語では疑問詞はk音で始まっているのですが、英語ではh音で始まっているのです。つまり、前項でのcornとhornと同じです。さて、このkとhの音の交替ですが、これは、ヨーロッパ語に限らず起こることです。前項では「上海」の例を出しましたが、ここではワールドカップの時の韓国の試合を思い出してください。サポーターたちは大声で「デー・ハン・ミン・グー」と応援していました。何と言っていたのでしょう。「大韓民国」と言っていたのです。私たちは「韓」を「かん」と読んでいますが、韓国の人たちは「はん」と読んでいるのです。
  ということで、英語のcueとwhenは語源的にはまったく同じで、ともに「きっかけ」を表しているのですが、現代英語では、もともと同じ語であったcueが「開始」、whenが「終了」の合図になっているのは面白いことです。棲み分けですね。
  ところで、ビリヤードの「キュー」は『明鏡国語辞典』では表題の「キュー」と一つの見出しのもとで扱われています。英語の綴りでもcueで同じなのですが、語源的には無関係です。こちらは他の英単語でいうとqueue(列)と関係があります。こんな綴りでも発音は「キュー」ですからcueと綴る人もいるようです。
11/05/04

「コンビーフ」と「ウオノメ」
  「コンビーフ」ってどんな食品ですか、と訊くと「えーっと、台形みたいな缶に入っていて、くるくる巻きながら開けるやつ」とかいった、中身とは関係のない答えがよく返ってきます。「コンビーフ」とはいったい何なのでしょう。
  「コンビーフ」を英語でつづるとcorned beefになります。頭のcornだけ見ると「トウモロコシ」のようですが、どこにも「トウモロコシ」が入っているようには見えません。そう思ってしまうのは、cornはもともと「粒」の意味で、現代のアメリカでは「粒状の穀物」の代表が「トウモロコシ」なので、日本でも一般に「トウモロコシ」だと思われているからです。イギリスではcornは「麦」になります。日本でもし英語が話されていたら、cornは「米」になったでしょう。では戻ってcorned beefですが、この場合のcornは「粒」は「粒」でも「塩粒」のことです。つまり、「塩(の粒)でつけた牛肉」のことなのです。今は、あまり粒の大きな塩を見ることはありませんので、麦やトウモロコシの粒と同じような塩の粒は思い浮かべられないかもしれませんが、cornは「塩」でもあるのです。
  ところで、想像上の動物に「一角獣」がいます。英語ではunicornといいます。英語の教科書にこの名前のものがありました。前半のuniは「一」を表します。「唯一の」を表す英語uniqueにもuniが見えます。後半のcornは「粒」かというと、今度はそうではありません。これは「一角獣」の「角」です。単独では「つの」とも読みます。「角(つの)」は英語でhornではないかという人は実に正しいのですが、実はこれはcornと同系なのです。カタカナで書くと「コーン」と「ホーン」でどうしてこれが同系なのか不思議に思う人は漢字「海」を音読みしてください。「カイ」ですね。では中国の地名「上海」の「海」だけ読んでみてください。今度は「ハイ」ですね。どうですか、同じことが起こっているでしょう。発音記号で言うとkと hの音はこのように入れ替わることがあるのです。ということで、hornとcornはもともと同じ語だということがわかっていただけたと思いますが、今度はタイトルの残りの「ウオノメ」の話をしましょう。
  「ウオノメ」は漢字で書くと「魚の目」になります。形が似ているのでしょう。英語でこれはcornといいます。また出てきました。「トウモロコシ」の粒に似ているからでしょうか。いえそんなことはありません。今度も「角(つの)」の方のcornなのです。「ウオノメ」も「角」も「皮膚が固くなってできたもの」という点で同じなのです。日本語でも「角質」という言葉があるでしょう。足のかかとの「角質除去」を一所懸命している人もいるはずです。「かくしつ」と読まないで、「つのしつ」と読んだら言葉を実感できるでしょう。
  最後に漢字の「角」を見てみましょう。この字は「つの、かく」とも読むのですが、また「かど、すみ」とも読めることは言うまでもありません。先ほどの「つの、ウオノメ」のcornにerを付けてみてください。Cornerができあがりました。「角」とcornは実によく似た意味を持っていることがおわかりいただけたと思います。もしかしたらもともと同じ語なのかもしれませんが、そこまでは今の段階では言い切れません。
06/05/04

「スニーカー」ってどんな靴?
  「スニーカー」というと、「オシャレな運動靴」という感じですが、まずはゴム底で、歩く時に音がしないことが大切です。それは英語のsneakers(「靴」の意味では複数です)のもととなるsneakという動詞には「こそこそ移動する」の意味があるからです。つまり「スニーカー」は「こそこそ靴」です。履く気をなくしましたか?しかし、もっと「オシャレ度」が下がる話をしましょう。英語のsneakの綴りをよく見てください。ある動物を表す語に似ていませんか。じつはこの語はsnake(ヘビ)と関係があるのです。さらにsnail(カタツムリ)も同系の語です。三つの語に共通するイメージは「這う」です。みんな、音を立てずに這っているのですね。「スニーカー」は「ヘビ靴」「カタツムリ靴」になってしまいました。これではとても走る気にもなれないですね。業者の方には叱られそうですが…。
  ところで、日本語の「ヘビ」のイメージは「這う動物」ではありません。それは「ひも」です。「ひも」のイメージでつながる語には、ヘビの一種で沖縄では「マングース」と闘わされている「ハブ」や魚の「ハモ」があります。「ハモ」は切り身しか見たことがない人がほとんどでしょうが、「ヘビ」のような形をしています。そして、三つとも似たような言葉になっているでしょう。「ひも」の「ひ」と「ヘビ」の「へ」は 「いい」を関西では「ええ」と言っているのと同じ変化です。「ひも」の「も」が「ヘビ」の「ビ」のように変わるのは「さむい」と「さぶい」の変化と同じです。いかがですか、英語では「ヘビ」から「カタツムリ」そして「スニーカー」へとつながったわけですが、日本語では「ヘビ」は「ハモ」「ハブ」そして「ひも」へつながっていきました。イメージまで考えると、snakeと「ヘビ」はかなり違うことがおわかりいただけたと思います。


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